「ため息をつくと幸せが逃げる」と言われて育った身としては、この研究結果は痛快だった。スタンフォード大学の研究チームが、心を落ち着ける方法をいくつか正面から比較したところ、良い成績を収めたのは瞑想でも複雑な呼吸法でもなく、ため息を意図的に繰り返すような呼吸だったのだ。

4つの方法を1ヶ月競わせた実験だった

2023年にCell Reports Medicine誌に掲載されたこの研究では、100人あまりの参加者を4つのグループに分け、それぞれ1日5分×1ヶ月続けてもらった。マインドフルネス瞑想、吸う・止める・吐く・止めるを同じ長さで回すボックス呼吸、速い呼吸を繰り返す方法、そして「サイクリック・サイ(周期的ため息)」——鼻から2段階で吸い、口から時間をかけて長く吐く呼吸だ。結果、気分の改善と安静時の呼吸数の低下が最も大きかったのはサイクリック・サイのグループだったと報告されている。やり方は、鼻で大きく吸う→さらにもうひと吸い足す→口からゆっくり吐き切る。これを5分間繰り返すだけ。道具も姿勢も問わない。

補足しておくと、この研究では実践した日数が多い参加者ほど気分の改善が大きい傾向も報告されている。つまり一発の裏技ではなく、歯磨きのように積む習慣として設計されている。瞑想との比較も面白い。瞑想は「今ここに注意を向ける」という頭の作業から入るが、呼吸法は体の操作から入る。じっと座って雑念と格闘するのが苦手な人ほど、手順が明確な呼吸の方が取りつきやすい——参加者の継続率を見ても、そう読める設計だった。

「吐く」が主役だという逆転が面白い

呼吸を整えると言うと、たっぷり吸うことを想像しがちだ。この研究が面白いのは、主役を「長く吐く」ことに置いた点にある。実は人間の体は、緊張や集中が続くと、無意識に深いため息を挟んで呼吸をリセットしている。生理的ため息と呼ばれるこの仕組みを、意図的に、まとめて実行するのがサイクリック・サイだ。つまり新しい技法の発明というより、体が最初から持っている整備機能を手動で回す発想に近い。

会議の前に深呼吸をして、かえって力んだ経験はないだろうか。あれは吸うことに集中しすぎた結果だろう、というのが編集部の見立てだ。息を吸うのは体のアクセルを、吐くのはブレーキを踏む操作に例えられる。緊張している時に必要なのはブレーキの方。ため息が「疲れた人の癖」に見えるのは、疲れた体が自力でブレーキを踏んでいる姿だからで、悪者扱いはお門違いだったことになる。

緊張する予定の5分前に、吐く練習をする

  1. 鼻で吸い、もうひと吸い足して、口から長く吐く。 吐く時間を吸う時間より長くとるのがすべて
  2. 回数を数えるなら5回から。 5分が難しければ、まず30秒でいい
  3. 使いどころを決めておく。 商談の前、通勤電車、サウナの外気浴中——「ここで吐く」と決めた場面があると習慣になる

呼吸法の途中でめまいや不快感が出たら中断すること。持病のある人は事前に医師へ相談を。

出典