長野県佐久市の成田山薬師寺の参道に、にっこり笑った小さな地蔵が立っている。名前は「ぴんころ地蔵」。ぴんぴん元気に長生きして、最期はころりと逝く——「ぴんぴんころり」の願いを背負った地蔵だ。縁起物として笑って通り過ぎることもできる。でもこの地蔵の背後には、この土地が半世紀かけて積み上げてきた、かなり骨太な物語がある。

数字で見ると、長野は本当に長寿の土地だった

厚生労働省が5年ごとにまとめる都道府県別生命表の令和2年版で、長野県の平均寿命は男性82.68年で全国2位、女性88.23年で全国4位。さらに日常生活に制限のない期間を示す健康寿命では、令和5年値で女性が8年連続、男性が3年連続の全国1位になったと県が発表している。単に長く生きるのではなく、元気なまま長く生きる——ぴんころ地蔵が掲げる願いを、統計が後追いで裏づけている格好だ。

「予防は治療に勝る」。地蔵より先に、病院と検診があった

この土地の長寿は偶然ではない、というのが定説だ。佐久市には全国的に知られる佐久総合病院があり、戦後まもなく赴任した医師・若月俊一のもとで農村医療の拠点になった。1959年には近隣の村で全村民を対象にした健康管理・集団検診に乗り出し、「予防は治療に勝る」を旗印に、病気になる前に見つける仕組みを地域ぐるみで作っていった。出張診療で医師の方から村へ出向き、演劇で衛生知識を伝えたという逸話も残っている。ぴんころ地蔵の建立は2003年。つまり順番としては、まず何十年もの地道な予防の文化があり、その象徴として地蔵が後から立ったのだ。

ここが今の時代に刺さる点だと私は考えている。サウナも筋トレも睡眠計測も、突き詰めれば「調子を崩す前に手を打つ」文化だ。佐久はそれを個人の習慣ではなく、町の仕組みとして70年前からやってきた。整えることの最古参は、案外こういう地方の農村だったのかもしれない。

「ぴんぴんころり」という言葉自体も、よく見ると挑発的だ。願っているのは長生きそのものではなく、最後まで自分の足で立っている時間の長さで、これは健康寿命という統計用語の、はるかに感じの良い言い換えになっている。しかも裏返せば「寝たきりの晩年は御免だ」という、かなり切実な意思表示でもある。地蔵に手を合わせるという柔らかい形式に、これだけ硬い覚悟を包んで運用してきたのが、この土地の上手さだと思う。健康は説教で広まらない。縁起物と参道と、帰り道の蕎麦くらいの緩さで広まる。

観光でも帰省でも、長寿の町は「歩いて」見るのがいい

  1. 佐久に来ることがあれば、参道を歩いてぴんころ地蔵まで行ってみる。 車で乗りつけるより、歩いた先で拝む方がこの地蔵には似合う
  2. 自分の町の「健康の仕組み」を一度調べてみる。 検診の案内を放置している人は、この機会に日程だけでも確認を
  3. 長寿の物語を、食と暮らしの目で観察する。 高原野菜、発酵食、坂の多い地形。長寿の土地には歩く理由と食べる理由が転がっている

編集部は佐久が地元だ。この土地の整えの文化は、今後も現地から書いていく。

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