眠れない夜の一杯は、たしかに効いている感じがする。体は温まり、頭はゆるみ、いつの間にか落ちている。この体感が嘘ではないところに、寝酒のやっかいさがある。前半だけ見れば、あれは本当に機能しているのだ。問題は後半にある。
前半の得を、後半で倍にして返す
厚生労働省のe-ヘルスネットは「快眠と生活習慣」の解説で、眠るための飲酒は勧められないと明確に書いている。理由はこうだ。アルコールは寝つきを一時的に良くする一方で、深いノンレム睡眠を減らし、夜中に目が覚める中途覚醒を増やす。つまり入口の数分を買うために、夜の後半をまるごと差し出している。トイレが近くなること、いびきをかきやすくなることも夜の後半を削る側に働く。いびきの調査記事で書いたとおり、自分の夜の異変には本人だけが気づけない。酒の夜は、その気づけない劣化が起きやすい夜でもある。
しかも体は寝酒に慣れる。同じ一杯では寝つけなくなり、量が増えていく——e-ヘルスネットはこの耐性の問題にも触れている。「眠るための道具」としての酒は、使うほど切れ味が落ちる道具なのだ。
晩酌を守りたい人のための、時間の引き方
ここで書きたいのは禁酒の勧めではない。酒は文化であり、一日の句読点として機能している家庭も多い。整理すべきは酒と眠りの距離だ。寝酒が問題なのは「眠る直前に、眠るために」飲む点にある。同じ一杯でも、夕食と一緒に、眠りから離れた時間に置けば、夜への影響は小さくできる方向に働く。目安としてよく言われるのは就寝の3時間前までに切り上げること。アルコールの分解には時間がかかり、体重や体質で大きく変わるから、これも自分の体で確かめながら引く線になる。
私自身は、飲んだ夜ほど早朝に目が覚める体質で、その朝の消耗を「年のせい」にしていた時期がある。原因の候補として酒を疑い始めてから、夜の一杯は夕食側へ移した。眠りの手当てとしては、これがいちばん安上がりだった。
飲み会の夜には飲み会の夜の工夫がある。酒と同量の水を挟むと、翌朝の消耗の度合いが変わることは多くの飲み手が経験的に知っているし、締めの一杯を「もう明日が始まってるんで」と断る言い回しをひとつ持っておくと、終電前の攻防が楽になる。それでも飲んだ夜は、いつもより早めに布団に入って後半の劣化ぶんを時間で補う。完璧な夜ではなく、傷の浅い夜を目指すのが、飲む人間の現実的な整え方だと思う。
今夜から試す、3つの置き換え
- 「眠るための一杯」を「夕食の一杯」に移す。 飲む量を変えずに、時刻だけ寝床から遠ざける
- 寝る前の一杯の役目を、別の温かいものに渡す。 白湯、ハーブティー、ホットミルク。「一杯で締める」という儀式自体は残していい
- 眠れない夜が続くときこそ、酒で解決しない。 酒は眠りの問題を隠しながら悪化させる。続くなら頼る先は一杯ではなく、医療の窓口だ


