9月になると、手帳の隅に書き込まれた有給休暇の残り日数が目につく時期がある。厚生労働省「令和7年就労条件総合調査」(令和6年の実績分、令和7年12月公表)には、そんな季節の裏側を映す数字が並んでいた。年次有給休暇の取得率は66.9%、取得した日数は12.1日。どちらも1984年以降で最高を更新し、取得率はここ10年、右肩上がりを続けている。数字は静かに更新されているのに、居心地の悪さは変わらない。
10年かけて、ようやく66.9%に届いた
結論から言うと、数字はたしかに伸びている。厚生労働省「令和7年就労条件総合調査」(令和6年の実績分)によると、年次有給休暇の取得率は66.9%、取得した日数は12.1日。どちらも昭和59(1984)年以降で過去最高を更新した。しかもこの伸びは単年の話ではない。取得率はここ10年、右肩上がりを続けている。長く「権利はあっても使いにくい」と言われ続けてきた有給休暇が、10年という歳月をかけて、ようやくここまで来た。
2019年に加わったのは、使用者への「時季指定」義務だった
取得率が伸びた理由は、精神論だけではない。2019年4月、労働基準法が変わったからだ。年10日以上の有給が付く人には、そのうち5日を必ず取らせる義務が使用者側に生まれた(労働基準法第39条第7項)。厚生労働省はこれを、労働者本人の請求、計画的付与制度、使用者による時季指定のいずれかで年5日を確実に取得させる仕組みだと説明している。取得の判断を個人にだけ委ねず、使用者にも責任を持たせた点が、それまでとの違いだ。政府はかねて、令和7年までに取得率を70%以上へ引き上げる目標を掲げていた。66.9%という今の数字は、その目標にわずかに届いていない。
数字が過去最高でも、3日に1日はまだ残っている
制度は用意された。それでも取得率は66.9%どまりで、逆から見れば33.1%、およそ3日に1日ぶんの有給休暇は、今も使われないまま残っている。義務化が保証するのはあくまで年5日で、そこから先を積極的に使う空気はまだ薄い。付与された日数は平均18.1日、実際に取得したのは12.1日。差にあたる約6日が、制度と運用のあいだに残ったままの隙間になる。疲労と疲労感の記事では、休めているかどうかを本人の感覚から見た。今日のこの33.1%には、感覚を挟む余地がない。取得したか、しなかったか。数字だけが動かずに残る話だ。
では、なぜこの33.1%は埋まらないのか。ここから先は数字の外側の話になる。有給休暇を使い切ることに、まだどこか気が引ける空気が、多くの職場に残っているからだと思う。「権利だから当然」と頭でわかっていても、周りが働いているときに自分だけ休むことへ、うしろめたさを覚えた経験がある人は多いはずだ。労基法が有給休暇を個人の意志ではなく仕組みの問題として扱い始めたのは、この空気を制度の力で動かすためだったとも読める。だから、埋まらない33.1%の正体も、個人の心がけの問題ではなく、仕組みの遅れとして見るほうが実情に近いと思う。
上司の顔色より先に、来月のカレンダーへ置いてみる
あなたの残日数は、今年すでにいくつあるだろうか。即答できない人は、少なくないはずだ。答えられないこと自体が、その33.1%の内側に自分がいるサインかもしれない。だとすれば、申請の順番を変えてみてはどうだろう。上司の反応をうかがってから動くのではなく、先に来月のカレンダーへ一日を置いてみる。空欄のままの休みより、すでに書き込まれた予定のほうが、周りも気にせずにいられるのではないかと私は見ている。
浮いた有給の使い道は、旅行でなくてもかまわない。ただ、複合型休養としての旅の記事で見た旅と同じで、日数が残っているだけでは休みの中身は変わらない、と私は見ている。使う予定を自分で先に置かないかぎり、数字はただの指標のまま止まる。
- 今年の残り有給日数を、今すぐ確認する。 手帳でもアプリでもいい。数字を出すことが、まず最初の一歩になる
- 使う予定を、申請の直前ではなく月初に先へ置いてみる。 それだけで少し気が楽になる、という人もいるかもしれない
- 理由を用意しない一日を、一度だけ試してみる。 「体調不良」でなくても休んでいい、をカレンダーの上で確かめる
66.9%という数字は、10年かけてここまで届いた。残りの33.1%を埋めるのは、次の法改正でも、上司の理解でもなく、来月のカレンダーに何を書き込むかという、ごく個人的な一行かもしれない。あなたの手帳の、次の空白の一日には、もう何か書き込まれているだろうか。


